海外留学をするには様々な方法があるが、ここでは筆者がした「学部留学」を紹介したい。学部留学は、語学留学などと違い、海外の大学に普通の学生として入学し、卒業を目指すというものだ。
筆者は高校卒業後、アメリカの大学に入学し去年無事卒業した。4年生の就活中に内定をいただいたシリコンバレーのとある企業で現在は働いている。
在学中に様々な人と出会い、授業を一つ一つこなしていく上で、「学部留学って予想してたのと違う!」と思う瞬間が何度もあった。そんな経験をしていくなかで、気づいた学部留学のメリットとデメリットをまとめていきたい。
英語力は勝手には向上しない!?
留学したら、ほとんどの人はなんらかの形で英語を喋る機会が日本にいる時と比べて増えるため、少しは英語力は向上するはずだが、「留学した人=ネイティブみたいにペラペラ」といった構図は間違っていると筆者は考える。
大学や仕事をしていく中で、様々な国の留学生を見てきた中で、英語でのコミュニケーションをスムーズにできる人は、実はそこまで多くはない。
特に理系の大学や大学院留学だと、実際問題喋らなくても、テストさえパスすればなんとかなるため、極端な例をあげると教授でも英語がめちゃくちゃな人がいる。
じゃあ留学しても英語は上達しないのか、というとそうではない。留学して、様々な人と出会い、英語で普段からコミュニケーションをとるようにしていれば、英語力は必ず上達していくはずだ。
アメリカの学費は、尋常じゃないくらい高い
アメリカの学費は、日本とは比べ物にならないくらい高い。アメリカでは、ローンを組んで大学にいく人も非常に多い。学生ローンが長期間返せず、経済的に非常に困難な状況に陥る人も少なくなく、アメリカの学生ローン問題がウィキペディアの記事になる程、大きな社会問題になっている。
というと、アメリカへの留学は不可能に思えるかもしれないが、2つこれには解決策がある。
一つ目は、残念ながら非常に限られたごくわずかな人しか使えない選択肢だが、アメリカの有名な私立大学は、その圧倒的な資金力を活用し、大量に奨学金を出してくれることがある。
そのもっとも極端な例はハーバードで、大学のサイトによると、半分以上の学生が、なんらかの形で奨学金を受け取っていて、100%の学生がローンなしで卒業できるそうだ。20%の学生は、奨学金のおかげでタダでハーバードにいけているらしい。留学生でも、アメリカ人と基本的には同じ奨学金に申し込めるらしい。
もちろんハーバードにいける人は非常に限られたトップ中のトップだ。2つ目の選択肢は、実際に筆者が使った方法で、最初に2年制の大学にいくというものである。
アメリカにはコミュニティカレッジと呼ばれる2年制の短大のような大学がたくさんあり、それらは、日本の私立大学程度の学費でいける。この2年制の大学を卒業した後、同じ州内の4年制の州立大学に編入するのは比較的楽にいける。この制度を使うことで、最初の2年の学費を圧倒的に抑えることができる。
例えば、サンフランシスコにある、「City College of San Francisco」というコミュニティカレッジは、一学期の学費が$4,592である。もちろん、これはサンフランシスコの大学なので、もっと田舎の大学だと学費は低くなる。
また、州立大学によっては、留学生にも奨学金を出してくれるところもある。そのようなシステムを活用すれば、もちろん日本で国立大学にいくよりは高くなってしまうが、学費を節約をすることは可能だ。
留学すると、色々な人に出会える
学部留学で4年間アメリカの大学にいっていると、様々な人に出会うことになる。もちろんいろいろなアメリカ人には会うだろうし、留学生は留学生同士でつるむことがどうしても多くなるため、様々な国の留学生と出会うことになる。
また学問の面で言うと、筆者は中堅の大学にいったのだが、卒業論文を書くときの指導教授は以前MITで教鞭をとっていた教授だった。非常に面倒見のいい先生で、卒論を書き直すたびに最初から最後まで目を通してくれて、様々なアドバイスをしてもらい、非常に充実した経験をすることができた。日本の大学で数学を勉強していたら、そんな経験をするのは、東大か京大にいっても怪しいのではないか?
卒業後シリコンバレーで働いている筆者だが、仕事上でも様々な人と関わることが多い。例えば、現在の同僚は、スタンフォード、カーネギーメロン大学など超有名大学の大学院にいった人がたくさんいる。そのような経験は日本ではなかなかできないのではないか、と思う。
真のアメリカの姿を目の当たりにし、視野を広げる
日本ではアメリカというと、「とりあえずなんかすげーんだろうな」というイメージを抱く人が多いと思う。もちろんアメリカには素晴らしいところもたくさんあり、それが理由で筆者はアメリカに在住しているのだが、同様にアメリカにはたくさん問題がある。
そんなアメリカの問題を目の当たりにすることで、一個人として、広い視野を持つことができるのではないかと思う。
その例の一つは、アメリカの根強い人種差別運動だ。先月のシャーロッツビルでの白人至上主義者の集会は記憶に新しい。もちろん、このような人種差別者の運動には非常に強い抵抗を感じている人がほとんどなのだが、それでもこのような問題はアメリカでは頻繁にニュースになる。
また、高額な医療費も大きな社会問題となっており、国際機関の調べによると、アメリカ人は他の国と比べて平均で5倍ほど医療への出費があるそうだ。(リンク)
人種のるつぼというような表現があるように、様々な人種が(基本的には)仲良く生きているという現実の裏には、人種差別運動があったり、様々な分野で世界の最先端を走っている中、国民は大学の学費や医療費が払えず苦しんでいる現実がある。このように様々な角度から物事を見るという力は社会に出てから非常に重要なのではと思う。
卒業後の就職は過酷
学部留学はそれ自体が、金銭的、精神的に大変だが、無事卒業にたどり着いたとして、その後安泰とは限らない。もしろ逆で、知り合いの留学生で進路に困っている人は少なくない。
アメリカで4年間学部留学をした人の多くは国籍にかかわらず、アメリカに残りたいという人が多い。しかしアメリカで就労ビザをとるのは簡単ではない。
大学卒業後、大多数の留学生はOPTという就労ビザを通じて、就職をすることになる。正確にいうと、OPTは就労ビザではなく、学生ビザの延長で、アメリカの大学を卒業した人は、学位に関連した分野で、卒業後1年間アメリカで仕事をすることができるというプログラムだ。
STEMと呼ばれるScience, Technology, Engineering, Mathematicsに含まれる学位を取った人は、2年このプログラムを延長できるため、3年間アメリカで仕事をできる。
OPTは簡単に取得できるのだが、そもそも留学生を雇ってくれない会社もあるため、OPTを取ったからといって就職できるとは限らない。
また就職できたとしても、OPTが切れた後にH1Bという就労ビザが必要になる。これは2017年現在抽選で決まり、半分以上の人は落とされるので、簡単には取れない。またH1Bは個人では申請できなく、会社によっては申請の手間や費用を理由に申請してくれないところもある。
また運良くH1Bを取れたとしてもH1Bは基本は3年しか持たない。3年の延長は可能だが、トータルで6年たった後はグリーンカードを申請するしかない。しかしグリーンカード申請には最低1年はかかるため、これまた楽な道ではない。
卒業後日本に帰る予定の人は、帰国Goというサイトやボストンキャリアフォーラムなど、道はいくつかあるが、日本の大学を卒業した人と比べると選択肢は狭まってしまう。
このようにアメリカへの学部留学は簡単な道ではない。しかしその分それを乗り越えた後に得られるものも大きいと筆者は考えている。