Appleがアメリカで申請した新たな特許が認められたが、その内容はなんと「紙袋」であった。
MacやiPhoneなどの製品そのものだけではなく、その梱包材にも良質なデザインやこだわりが感じられるAppleであるが、Apple Storeなど小売店で渡されるショッピングバッグまで含めたあらゆる顧客体験を、包括的にデザインしようとしていることが改めて分かる。
Appleが新たに特許を取得した「紙袋」は、一体どれほどハイスペックなものなのだろうか。
(Photo via United States Patent 20160264304 / Oct 15, 2016)
買い物袋から見えるAppleの環境とブランド力への配慮
本年9月15日にAppleに認められた特許(US 20160264304)は、ショッピングバッグだ。
接着剤を除き、全てが紙でできた「ハイエンドな」買い物袋と表現されており、しかも全体の60パーセントをリサイクルされた紙で構成するという。
高級な紙袋などに使用されることが多いとされるsolid bleached sulfate(マニラボール、SBS)と呼ばれる素材を用いており、一般的なスーパーマーケットなどで使用される薄茶色のクラフトペーパーなどと比べ、ユーザーの使用感が向上するという。
従来のクラフトペーパーを「rough and dull fit and finish(ザラザラして味気ない仕上がり)」と形容しており、それに代わる素材としてマニラボールを採用したようだ。
商品購入時に手渡す紙袋に至るまで、徹底した顧客主義を貫いていることが特許申請からも伺うことができる。
マニラボールは、その50パーセント以上がリサイクル素材で作られていると、強度に懸念が生じるとされている。
60パーセントをリサイクル素材で構成するということは、技術的な困難が伴うものである。
今回の特許は、60パーセント以上をリサイクル材で構成していても、十分な強度を維持できるという点で新しいものだ。
アップルが環境保護に対するこだわりを持ちつつも、決して低質な素材を使うのではなく、技術的困難を乗り越えてでもユーザーの利便性を保護することを実現しようとしているのが分かる。
[0025] Generally, the greater the proportion of post-consumer content in white or SBS paper, the weaker the paper (e.g., the paper will more easily tear (including scoring or cracking)). For this reason, conventional bags formed of SBS paper are made with 50% or less post-consumer content (usually 40% or less), since SBS paper having greater than 40% or 50% post-consumer content would conventionally be considered too weak (e.g., prone to tearing) for use in a bag, particularly a bag with multiple folds such as corner folds or expansion folds that give it shape or allow it to expand from a flat configuration to an open configuration.
一般的に、白紙やSBS紙の原料のうち使用済み原料が占める割合が大きくなれば大きくなるほど、紙は弱くなっていく(紙がより一層裂けやすくなる)。そのため、従来のSBS紙からできたバッグは、使用済み原料の割合が50%以下(主に40%以下)で作られてきた。
40%または50%以上が使用済み原料であるSBS紙は、従来はバッグ–−特に、畳んだ状態から開いた状態に変形し中を拡張できるような、角・本体などの複数の折り目を備えたバッグ—として使用するには弱すぎた(破れがちである)ためである。
[0026] To strengthen areas of the bag container, such as folds or gussets at its corners or edges, in some embodiments of the present invention reinforcement inserts may be applied to such areas. The reinforcement inserts may be formed of the same material as the bag container (e.g., SBS with at least 60% post-consumer content). Such reinforcement inserts can augment the strength and resistance to tearing of the bag container material to make it structurally suitable for use as a bag, thereby increasing the amount of post-consumer content usable in an SBS paper bag. This can help to reduce any environmental impact from production, use, and disposal of the bag.
[バッグの]コンテナ部の角や端部にあるマチや折り目などの箇所を強化する為、本発明の実施の形態(※筆者注:embodiment、特許用語であり申請書中でアイデアを具体的な形にしたものを指す)では、差込補強材がそれらの部分に用いられている。差込補強材は、コンテナ部と同様の素材(60%以上が使用済み原料で構成されたSBS紙)で作られている。そのような差込補強材により、バッグとしての使用に適した構造となるよう、強度と破れにくさを増すことができ、SBS紙を用いたバッグに使用できる使用済み原料の量を増やすことができる。これにより、バッグの製造、使用、廃棄に係る環境負荷を減ずることに役立つ。
[0027] The bag handle may be formed entirely of paper, with the potential exception of adhesives. Typical paper handles are stiff and inflexible; these qualities contribute to a rough, unfinished feel. In some embodiments of the present invention, the bag handle may be formed to have a feel and flexibility unlike that typical of paper, however. For example, the handle’s feel and flexibility may be similar to that of a hollow textile tube, like a shoelace. To effect this feel and flexibility, the handle may be formed of knitted paper fibers in a tight-knit pattern with a large diameter. For example, the handle may be formed in an 8-stitch circular-knit pattern, and may have a diameter greater than 6.5 millimeters (e.g., 6.5 millimeters, 8 millimeters, greater than 8 millimeters).
バッグの持ち手も、接着剤を除いて全て紙によって構成される。典型的な紙製の持ち手は、硬く柔軟性もなく、ザラザラして仕上げが済んでいないかのような使用感を与える。[これに対して、]本発明の実施の形態では、バッグの持ち手も、典型的な紙素材と異なる手触りと柔軟性を備えるように構成されている。例えば、靴ひものようなチューブ状の織物に似た手触りと柔軟性である。このような手触りや柔軟性をもたらすため、バッグの持ち手が緊密な編目で編まれた、直径の太い紙繊維でできている。たとえば、ステッチ数が8の円形の編目で、6.5ミリ以上(6.5ミリ、8ミリ、8ミリ以上)の直径を備えた持ち手である。
(Quoted from United States Patent 20160264304 / Oct 15, 2016)
日本においても、小売店で商品を購入した時に、やたらと高品質な紙袋を渡されることがあるが、確かに購入後の満足感を大きく左右する要素と言えるかもしれない。
特に持ち手については、Appleで言えばMacなどの重量のある商品を買うと、家に帰るまでずっと片手で持っていなくてはならないわけで、指が痛くならない柔らかい素材でできていることは重要だ。
例えば無印良品などでは、他のお店の買い物袋を持っていくと「おまとめしますか?」と無印良品の紙袋に全ての荷物をまとめられるが、ある意味歩く広告塔として顧客を活用してしまおうという戦略でもある。
日本でもこうした商品そのもの以外の部分に力を入れ、ブランドや顧客の体験の向上を図ろうとする店舗は数多くあるが、Appleのように特許を取るほど入念に取り組んでいるところはなさそうだ。
コモディティ化した商材を扱うことから、ブランド力が大きく業績を左右する企業ならではの取り組みと言えるかもしれない。