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トランプの次はフランス?極右マリーヌ・ルペンが仏大統領になる日

トランプの次はフランス?極右マリーヌ・ルペンが仏大統領になる日

「奴らの世界は崩壊し、”私たち”の世界が築かれつつある。」
過激な排外主義・保護主義で知られるフランスの極右政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペンのブレーンは、トランプ大統領の誕生を受けて、こうつぶやいた。

2016年6月、多くの政治エリートやメディアの予想に反して、イギリスは国民投票でEU離脱を決めた。
この「Brexit(ブレグジット)」から始まる波乱は、16年11月のアメリカ大統領選でまさかのトランプ大統領が選出されたことで、さらにその衝撃を増している。

そして、従来のエリートや大手メディアにとっての次なるド級サプライズが、今年の5月にもフランスで起こるのではないかと恐れられている。
フランス大統領選の世論調査で、トランプと同様に過激な発言を繰り返す極右政党の党首マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)の支持率が、正統保守候補に肉薄し、ついには上回る事態になっているからだ。

Photo credit: blandinelc via Visual Hunt / CC BY




トランプ大統領から始まる「新しい世界秩序」の夜明け

アメリカ大統領選挙の当日の朝でさえ、ニューヨークタイムズやウォール・ストリートジャーナルなど、アメリカの大手新聞各社はヒラリー・クリントンの勝利を予想していた。

誰一人として予想していなかったトランプ大統領の勝利は、これまで政治権力を握り続けてきた正統右派・左派双方の政治家やメディア、エリートたちに大きな衝撃を与える一方で、ヨーロッパをはじめとする世界中の極右政党に大きな希望を与えた。

そして、次なるサプライズの爆心地はフランスかもしれないとされる。
17年5月に大統領選挙を予定しているフランスでは、排外主義や反イスラムを掲げる極右政党「国民戦線」が、急速に支持を伸ばしているのだ。

冒頭で紹介したように、国民戦線党首のマリーヌ・ルペンを支える参謀である国民戦線の広報担当者、フロリアン・フィリポット(Florian Philippot)氏は、トランプ大統領の当選直後、ツイッターに「Their world is collapsing. Ours is being built.(奴らの世界は崩壊し、”私たち”の世界が築かれつつある。)」と投稿している。

投資家がどの程度将来の株式市場の変動を予想しているかを示す「VSTOXX(欧州恐怖指数)」からも、フランスの極右候補が嵐を巻き起こすことへの恐れが見て取れる。
イギリスがEU離脱を決めたブレグジットの国民投票の1週間前には、VSTOXXは39.9という高い数値をつけていたが、1月末現在で15.61まで落ち着きを取り戻している。
しかし、フランス大統領選挙(2回に分け実施)の1回目投票が行われる4月物は、22.65と高い数値をつけている。

国民戦線の党首、マリーヌ・ルペンとは何者か?

Marine Le Pen

Photo credit: theglobalpanorama via Visual Hunt / CC BY-SA

過激な発言で知られるマリーヌ・ルペンだが、日本ではまだその名も、人物像もそれほど知られていない。

最大の波乱要因は、ルペン氏がEU離脱を掲げていることであろう。
彼女は、大統領選に勝利したあかつきには、6ヶ月以内にフランスのEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約している。

そして、移民の排斥や国籍要件の厳格化、反イスラム主義を掲げ、保護主義的な経済政策の展開も示唆している。
こうした点は、まさにアメリカを席巻しているトランプ旋風と似ている点だ。

また、外交面でもトランプと同じく、親ロシア的な発言が目立つ。
過去には、ロシアによるクリミア併合は違法ではないと述べ、ロシアに対する西側諸国の経済制裁を批判したこともある

Jean Marie Le Pen

Photo credit: Remi Noyon via VisualHunt.com / CC BY

マリーヌ・ルペンが党首を務める国民戦線は、そもそも彼女の父親であるジャン=マリー・ル・ペン(Jean-Marie Le Pen)が立ち上げた政党だ。
国民戦線は、設立当初から、移民の排斥、反EU・EU離脱、国籍取得制限の強化などを掲げてきた。

2002年の大統領選挙では、社会不安を背景にして予想外の高支持率を獲得し、ジャン=マリー・ル・ペンは決選投票まで進み、シラク大統領と争った過去がある。

二回投票制を採用するフランスでは、1回目の投票で過半数を誰も取らなかった場合に、上位2候補が決選投票を行う。
決選投票では、左派・右派の両方が自分にとって“マシ”な候補を戦略的に選び投票することから、中道右派・左派がシラク大統領を支え、極右のル・ペンを落選させたのだ。

2016年に起こった凄惨なテロ事件の不安を引きずるフランス国民が、移民排斥、反EU、国籍要件の強化を掲げるマリーヌ・ルペンを支持するのは想像に容易いだろう。
2017年5月のフランス大統領選でも、2002年のフランス大統領選挙の再現が起こる可能性が高いのだ。

フランス大統領選は4候補の争い?

現在、フランスの大統領を務めているオランド大統領の支持率は、相次ぐテロの影響などから10%を下回っている。
このままでは、自身の属する左派連合が間違いなく敗北してしまうことから、オランド大統領は大統領選への立候補を見送ると発表し、フランス第五共和制史上初めて、再選に向けた立候補をしない現役大統領という不名誉な称号を得ることになった。

現役大統領が立候補しないため、左派連合も新たに大統領候補を選ぶ必要があり、それぞれの党派が大統領候補の選出を進めてきた状況だ。

極右1党、伝統2党、新参1名の大統領候補者たち

「国民戦線」のマリーヌ・ルペンを始め、今回のフランス大統領選挙では、有力な候補が全部で4名いるとされる。
マリーヌ・ルペン、共和党のフィヨン氏、左派連合のアモン氏、そして最近支持を伸ばしている新興政党の中道派マクロン氏だ。

共和党の大統領候補を決める予備選では、政治経験も豊富な中道右派のフランソワ・フィヨン元首相が当選した。
フィヨン氏は、文化的には保守的な政策を掲げつつ、50万人分の公務員のポストを削減し、元英首相のサッチャーのような大幅なコストカット策を講じるという強硬な主張も行なっている。

一方、社会党を中心とする左派連合の大統領候補を決める予備選は、早速波乱続きとなっている。
オランド大統領の低支持率から、もはや誰も左派連合から大統領が誕生するとは思っていないとされ、予備選での投票者数も共和党の予備選の投票者数を大きく下回るものだった。

そんな環境のせいか、中道派のバルス氏が勝利するとの大半の予想を裏切り、2020年までにベーシックインカムを実現させ、労働時間規制を週35時間からさらに32時間に厳格化するといった尖った政策を掲げるブノワ・アモン元国民教育相が当選した。

ここで、あたかも「漁夫の利」とでも言えるような形で支持を伸ばしているのがエマニュエル・マクロン氏だ。
マクロン氏は、オランド政権で経済相を務めるも辞任し、16年夏に新たな政治政党「En Marche! (=On the Move!)」を立ち上げたばかりだ。

マクロン氏は、メディアでの人気が高く、また政治的にも経済的にもリベラルな立場をとり、極端な候補が多い今回の大統領選で、多くの労働者、中道派の支持を集めると予想されている。

マリーヌ・ルペンの決選投票進出はほぼ確実

France

Photo credit: jugglerpm via VisualHunt / CC BY

世論調査会社のイプソス・ソプラ・ステリアとルモンドによる調査を見ると、各候補の支持率が非常に肉薄していることが分かる。

2016年の12月時点では、共和党候補のフィヨン氏が28%の支持を集め、国民戦線のマリーヌ・ルペン氏は25%に留まり、共和党が優位であると言われていた。

しかし、最新の1月の調査では、マリーヌ・ルペン氏の支持率が25%〜26%であったのに対し、共和党のフィヨン氏が23〜25%と、ついに国民戦線のルペン氏が首位に躍り出た。
これに対し、新党を立ち上げたエマニュエル・マクロン氏の支持率は19~21%となっており、若干首位の2人からは突き放されてしまっている。

最も可能性の高いシナリオは、2002年のルペン(父)とシラクが争った時と同じく、第1回目の投票では誰も過半数の支持を得ることはできず、国民戦線のマリーヌ・ルペン氏と共和党のフィヨン氏が決選投票に突入するというものだ。

決選投票に突入した場合は、左派連合のアモン氏、新興中道政党のマクロン氏を支持していた人々が、急に極右政党を支持するとは考えにくく、多くは共和党のフィヨン氏に戦略的に投票を行うことになるだろう。

マリーヌ・ルペン氏は、決選投票には間違いなく進み、他党派の戦略的投票によって敗れる、というのが現在の政治家やメディアの間でのコンセンサスとなっている。

しかし、2016年からの度重なる波乱により、事前の世論調査や、メディアや政治家、アナリストの予想はほとんど当てにならないと感じる人も多いだろう。
フランス大統領選でも、決選投票で敗れると予想されるマリーヌ・ルペンが、まさかの大統領となることもありえなくはない。

特に市場関係者は、フランス大統領選挙に向けて株価の乱高下が予想されることから、4月以降のフランス政局からは目が離せない。

About The Author

nipponomiaCo-Founder, Writer小松明
平成生まれ。神奈川出身。
米国でパブリック・アイビーの一つに数えられる州立大学への留学を経て、某旧帝大を次席で卒業。TOEIC満点。現在はNGO勤務。

英語の読解力にはかなりの自信があり、海外の学術論文からテック系ニュースまで、日々情報収集している。
主要な関心は日本、英米の社会保障制度。
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