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全米各地のトランプ支持者インタビューに見る「もう一つのアメリカ」

全米各地のトランプ支持者インタビューに見る「もう一つのアメリカ」

ついに米大統領となったドナルド・トランプは、選挙中から一貫して「forgotten people(忘れられた人々)」に対し、自らがその声になると呼び掛け続けてきた。

晴れてトランプが就任演説を行った今、トランプ大統領の支持者は、何を思い、何を期待しているのだろうか。
米ヤフーニュースのチームは、トランプの大統領就任演説までの1週間をかけて、白人労働者が多く住む「forgotten places(忘れられた地)」を巡り、トランプ支持者の生の声を集めた。

暴言ばかりで、あれほど大手メディアに批判され続けたトランプ氏が、何故大統領選挙で勝利するほどの支持を集めたのか。

その背景には、日本でのメディア報道ではほとんど触れられることのない、日々繰り広げられているメキシコ国境警備の実情や、伝統的白人層の危機感、アメリカ労働者の切実な感覚があった。
日本人が知らない、もう一つのアメリカ社会の姿を、トランプ支持者の声を通して紐解いていこう。

Photo credit: Gage Skidmore via Visualhunt.com / CC BY-SA




トランプを熱狂的に支持する、アメリカ社会の「忘れられた人々」

トランプが「forgotten people(忘れられた人々)」と呼んだのは、アメリカ全土の労働者層のアメリカ人である。
アメリカの中でも比較的貧しく、日々の生計を立てるのにも苦労する彼らは、エリートで構成される大手メディアや、ワシントンの連邦政府から蔑ろにされている感覚を有し、不満を蓄積していると言われる。

以前当ブログで紹介しているマイケル・ムーア氏による大統領選の分析でも、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州といった中西部の「ラストベルト」地帯が、トランプ勝利の鍵とされていた。
「ラストベルト」は、アメリカ中西部を中心とする重工業地帯であるが、かつての繁栄も虚しく、今や衰退の一途を辿っている。

こうした不景気に苦しむ白人労働者層こそが、トランプの最大の支持母体であるとされている。

共和党の大統領候補として当選を果たした際、トランプ氏は演説で次のように述べた。

共和党候補当選時のトランプ氏の演説(2016年7月)

“The forgotten men and women of our country, people who work hard but no longer have a voice — I am your voice,”
身を粉にして働くも、声を持たない我が国の忘れ去られた人々よ、私があなたの声になります。

既得権益となったエリート層と、生活に苦しむ労働者層を対比し、労働者層を中心とする中〜下層の国民に対し、米国第一主義と保護主義を掲げる姿勢が、トランプの最大の特徴だ。
そして、この姿勢は大統領就任演説でも一貫していた。

大統領就任式におけるトランプ氏の演説(2017年1月)

“…but we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the people.”
(中略)我々は権力を、ワシントンD.C.から、あなたに、国民の皆さんに戻すのです。

“Washington flourished, but the people did not share in its wealth. Politicians prospered, but the jobs left and the factories closed. The establishment protected itself, but not the citizens of our country.”
(中略)ワシントンは繁栄しましたが、国民はその富を共有しませんでした。政治家は豊かになりましたが、雇用は放置され、工場は閉鎖されました。支配者層(Establishment)は自らの身を守り、我が国の市民は守られませんでした。

“The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer. Everyone is listening to you now.”
(中略)我々の国の忘れ去られていた男性や女性は、もう忘れられることはありません。皆が、あなたに耳を傾けています。

こうしてトランプは、政治経験がないものの、白人労働者層を中心とするいわば「サイレントマジョリティ」に変革をもたらすものとして期待され、大統領の座に就くことに成功したのだと分析されることが多い。

しかし、実際のところ、トランプ大統領が掲げる政策には無理のあるものが多く、白人労働者層がいくら現状への不満を有しているといっても、これほど多数の支持を取り付けるのは、やはり不思議である。

米ヤフーニュースは、日本時間1月21日に行われるトランプ大統領の就任演説を前に、全米各地を訪れ、実際にトランプに投票を行った人々の話を聞くことで、トランプ支持者がトランプに一体何を期待しているのかを紐解こうと試みた。

日本人が知らない本当のアメリカの姿を明らかにするため、そのインタビューの一部を見てみることにしよう。

アメリカを横断するトランプ支持者インタビューの旅

Trump sign
Photo credit: dno1967b via Visual Hunt / CC BY

米ヤフーニュースのチームは、大統領選挙の際に、トランプが勝利した地域を順に巡っていき、それぞれの地域で支持者に対するインタビューを試みている。
訪れた地域は、衰退する重工業地帯であるラストベルト、寂れた炭田の広がるアパラチア山脈、南部の都市、メキシコに仕事が流出し続けている保守系の中部地域まで多岐にわたる。

それぞれのインタビューを見ていくと、トランプの支持母体が非常に多様であることがわかる。

トランプ支持者は皆が乱暴者で、熱狂的な信者というわけではなく、各人が切実な思いの中でトランプを選び、支持者となっているのが実態なのだ。

本当の意味での「Wall(壁)」を切望するメキシコ国境の街

トランプ大統領は、選挙戦の初期から、一貫してメキシコ国境への「壁」の建設を訴えてきた。
トランプ自身が、「Trump Wall(トランプの壁)」、「Greatest Wall(最も偉大な壁)」、「Beautiful Wall(美しい壁)」などと呼んできた「壁」は、実現不可能でバカげた政策であると、メディアによって頻繁に批判されている。

しかし、メキシコとの国境を接するアリゾナ州西部ユマ郡に住む人々は、そのような大手メディアとは全く異なる意見を持っているようだ。

ユマ市の中心市街地からおよそ25キロほどの場所に位置するメキシコとの国境線は、過酷な砂漠地帯である。
この地帯は砂吹雪が強く、風が毎時間ごとに地形を変えてしまうため、アメリカの中でも、最も巧妙な警備が必要になる場所であるとされている。
かつては、麻薬カルテルの密売人が砂地用バギーを用いて簡単に国境を超えてしまうことができ、ドラッグを米国に持ち込むのに使われていたという。

10年前、ブッシュ大統領の時代に、この地の警備を強化するために多額の投資が行われ、画期的な「floating fence(浮動フェンス)」が導入された。
サンドドラゴンとも呼ばれるこのフェンスは、5メートルの高さを有し、砂が降り積もってフェンスが埋もれた時に、専用の機械を使えば再度砂漠の表面までフェンスを持ち上げ、常に高さを保つことができるものだ。

このフェンスによって、国境をまたいでアメリカへの侵入を試みる不法移民は大幅に減少した。
麻薬カルテルによるドラッグの密輸が完全に防げるわけではないが、事実国境の警備にフェンスは極めて重要な役割を果たしている。

このような国境警備の最前線であるユマで働く人々は、日々危険な仕事に取り組んでいる。

詳細な身分を明かすことができないというRobert氏は、国境警備の任についている。
彼によれば、たとえ日中であっても麻薬カルテルからの狙撃が行われることがあるという。数年前には、夜間にフェンスにスロープを立てかけ、ジープで突破しようとした者さえいた。

彼は、Trump Wallをバカげたものとしつつも、トランプに投票した。
“Wall”という言葉の背景にあるコンセプトそのものは、極めて重要であると考えているからだ。

トランプ支持者インタビュー:国境の町アリゾナ州ユマの国境警備職の意見

“It can’t be done. [Unmanned aerial vehicles], sensors, technology, that will be the wall. But you say ‘wall’ to people, and they picture the Chinese or the Berlin wall.”
[壁は]実現できない。無人飛行機やセンサー、テクノロジーこそが「壁」になるのだ。しかし、壁と言うと、それを聞いた人々は中国の万里の長城や、ベルリンの壁を想像する。

“But that’s not gonna happen in America. We cannot do it. We’d have to kill half the environmentalists … and go against treaties. And then you have geographical issues.”
しかし、そんなことはアメリカでは起きない。できないのだ。[物理的な壁を建設するためには]環境保護論者の半分を殺し、また条約にも違反しなければならなくなるだろう。

“We need exactly what he’s talking about … But it’s not going to be a wall.”
我々は、トランプが述べていることを必要としているが、それは「壁」ではない。

(Quoted from the Yahoo News, “On the border, waiting for the big, beautiful wall” / Jan 21, 2017)

ワシントンポスト紙が、物理的な「壁」としてのトランプウォールを実際に建設する場合の費用を計算して、不可能だと批判するなど、大手メディアは一貫してトランプウォールに対する批判を続けてきた。

しかし、トランプ支持者が求めているものは、物理的な「壁」そのものではなく、不法移民の排斥であり、メキシコ国境の堅い守りなのだ。
それを強い言葉で叫び続けるトランプは、確かに心強く、支持を得るのも頷ける要因と言えるだろう。

白人労働者がトランプを支持する典型例

アメリカのペンシルバニア州の北西部に位置するエリー郡のエリー市は、近年人口が1920年以来初めて10万人を割り、失業率が7%近くまで上昇している街である。
今回の大統領選挙では、1984年以来初めて、共和党の候補がエリー郡で勝利した。

この街で暮らすBill Rieger氏は、典型的な白人労働者層であるが、24年間一度も投票をしたことがなかった。
しかし、トランプの演説を聞いて、トランプの熱狂的な支持者となり、投票を決めたという。

トランプ支持者インタビュー:ペンシルバニア州エリー郡の白人労働者の意見

“I want to see borders again, I want to see taxation on all the stuff that comes in, heavily, so that maybe our own businesses come back.”
私はもう一度「国境」を、そして輸入される全てのものへの課税を望む。そうすれば恐らく、我々自身のビジネスが返り咲く。

“I’m not that optimistic that you can change the world in a day, so I would hope to see in 18 months to two years his policies implementing and really actually making changes”
世界を1日で変えることができると考えるほど、私は楽観主義者ではない。1年半から2年後に、トランプの政策が実行され、実際に変化を引き起こしていることを期待する。

(Quoted from the Yahoo News Video, The voices of Trump’s America / Jan 21, 2017)

中間層、労働者層の多くが、トランプに対し最も期待しているのは、雇用の創出と、保護主義的な貿易政策の展開である。

アメリカ中西部のいわゆるラストベルトを筆頭に、不景気や失業率の上昇に悩む地域の人々の中では、メキシコからの移民が仕事を奪っているという認識や、安価な輸入品によって自分たちのビジネスが立ち行かなくなっているという認識が特に強い。
こうした人々にとっては、トランプ大統領がアメリカ国内の自動車メーカーからIT企業まで、仕事をアメリカの外に流出させないよう圧力をかけまくっているのは非常に痛快であるはずだ。

また、中国、日本、メキシコなどからの輸入品に高い関税(国境税)をかけるということや、各企業にアメリカ国内に工場を作らせるといったこともトランプはしきりに口にしているが、それはこうした支持母体の特性があってこそのものである。

しかし、Rieger氏のように、トランプの支持者であっても、トランプによる変革には困難が付いて回り、大きな変革には時間がかかるだろうという認識は持っているようだ。

アメリカ南部の超保守派もトランプを支持

米中南部の州オクラホマは、Bible Beltと呼ばれる非常に保守色の強い地域の中心部だ。昔から共和党が強く、選挙前からトランプがまず間違いなく勝利するとされていた。
実際に、オクラホマでは大差をつけてトランプが勝利したが、その要因はトランプが石油やガスの生産といったオクラホマの主要産業の復活と、雇用の創出を誓ったことに加えて、トランプが選挙戦の最終週に、厳格な保守主義者を最高裁判事に指名すると明言したことが大きいとされている。

全米の大統領選挙の際の出口調査では、自らをキリスト教福音派(聖書を神の言葉であると認める伝統的なプロテスタントの教派)とする者の80パーセントはトランプに投票を行なっていた。
これは、2004年の選挙でジョージ・W・ブッシュが記録した78%を上回る非常に高い割合だ。

敬虔なキリスト教徒で、保守色の強い人々は、基本的に同性愛や中絶といった議論に強い嫌悪感を有している。
そうした重要なテーマについて判例を作る可能性のある最高裁判事を、保守系の人物にすることを約束することで、トランプは敬虔なキリスト教徒も支持者として取り込むことに成功したと言える。

オクラホマシティに住むBob Moore氏は、すでに定年退職をしたキリスト教徒で、自らを非常に保守的な人物であると形容する。

トランプ支持者インタビュー:オクラホマ州の敬虔なキリスト教保守派の意見

“There is a lot of things I don’t like about him, but what I like is his platform. I think we’re in a headlong dive to socialism under Obama and Hillary.”
トランプについて嫌いなことは沢山あるが、私が好きなのはトランプの掲げる公約だ。オバマとヒラリーの下では、我々は社会主義に真っ逆さまに飛び込んでいくことになると思う。

“I’m a very conservative person. So that’s why I voted for him. But I think he’ll be good for the country. I think he’s a lot better than Hillary.”
私は非常に保守的で、それが私がトランプに投票した理由だ。でも、彼はこの国にとって良い大統領になると思う。彼はヒラリーより遥かにマシだ。

(Quoted from the Yahoo News Video, The voices of Trump’s America / Jan 21, 2017)

「ヒラリーよりマシだから」として、トランプに投票するという選択は、非常に多かったのではないかと思われる。
民主党候補のヒラリー・クリントンの掲げる政策は、ヒラリー自身が女性であり、さらに同性婚を認める発言をするなど、強硬な白人保守派にとっては我慢し難い政策が多かったためだ。

トランプを支持する理由は実に多様

Trump make america great again
Photo credit: Gage Skidmore via VisualHunt / CC BY-SA

トランプ支持者は、伝統的エリート層が選挙戦中に描いていたほど単純な人々で構成されているわけではない。
支持者の多くは確かに現状に不満を持つ白人有権者だが、当然ながら、必ずしも支持者の全員がそのカテゴリーに当てはまるわけではないのである。

例えば、アメリカ南部の強硬なキリスト系保守派の多い地域(Bible Belt)の人々は、トランプが好きというよりは、多くがヒラリー・クリントンが嫌いであるが故にトランプを選択していた。
そうした人々は、行き詰まりをみせるワシントンの連邦政府を、トランプを使って揺るがしてやりたいと考えて票を投じているようだ。

そして、トランプ大統領を支持する人々は、トランプが選挙戦中に掲げたことを全て実現できるとは当然考えておらず、またトランプが掲げたことの全てに賛成しているわけでもないようであった。
実際、トランプの支持者でさえ、トランプがメキシコ国境に建造するという「beautiful wall」の実現可能性については疑問を呈している。

また、Twitterで敵対者に対して暴言を吐きまくる傾向も含め、トランプに暴言や態度をもう少し抑制的にしてほしいと望んでいるのは、トランプ反対派だけではなく、トランプ支持者も同様なようだ。

試されるトランプと、分断されたアメリカ

Anti trump demo
Photo credit: Lorie Shaull via Visual hunt / CC BY-SA

米国時間1月20日、日本時間1月21日に行われたトランプ大統領の就任演説(inauguration)の際には、トランプを支持するグループと、反対するグループによる多数のデモが行われた。

トランプ大統領は、相変わらずツイッター上で積極的にツイートすることはやめないと表明するなど、トランプを支持しない人々にとって、これからの4年間はストレスの溜まるものになるかもしれない。

しかし、トランプ支持者にとっても、どのような未来が待っているかは分からない。

トランプが、支持者が期待しているような変革をワシントンに巻き起こすことができるのか。
トランプ大統領を支持する殆どの人々が期待している雇用の創出や、経済の回復といったことを実現できなければ、さすがに政権は盤石ではいられない。
以前当ブログで紹介しているように、アメリカの政治学界の中には、トランプ政権は早期に解散すると予想する専門家もいるくらいだ。

まだしばらくは、トランプ大統領の一挙手一投足から、目を離せない日が続くことになりそうだ。

About The Author

nipponomiaCo-Founder, Writer小松明
平成生まれ。神奈川出身。
米国でパブリック・アイビーの一つに数えられる州立大学への留学を経て、某旧帝大を次席で卒業。TOEIC満点。現在はNGO勤務。

英語の読解力にはかなりの自信があり、海外の学術論文からテック系ニュースまで、日々情報収集している。
主要な関心は日本、英米の社会保障制度。
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