アメリカ政治学界の重鎮が語る、トランプ政権が短命に終わる理由

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クリントン氏が勝利するとの世間の予想に反して、思わぬ結果で終わったアメリカ大統領選。
軍事的にも、経済的にも世界の最先端を走るアメリカのリーダーとしてドナルド・トランプ氏が選ばれたわけだが、その奇抜な発言や政策から、非常に強い反感を持つ人も多い。

日本でも、トランプ氏の暴言は大統領選の候補者選びの頃から繰り返し報道され、アメリカから遠く離れた日本においてさえ、ほとんどの人がトランプ氏に対し嫌悪感を抱いているのではないだろうか。

メディアによって繰り返し刺激的なシーンばかりが報道され、なんとなく悪印象を生んでいるが、大半の日本人は、トランプ大統領が実際のところ何を公約としていたのか、何を訴えているのか、これから何が起きるのかについて、何も知識がない状態であろう。

せっかくアメリカ大統領選に多くの日本人が関心を抱いているのだから、これを機にもう少し詳しくトランプ氏の政策を分析し、日本に訪れるかもしれない未来について考えを巡らせて見てはどうだろう。

そこで今回は、そんなトランプ氏が選挙戦の時から主張してきたことをまとめる。
さらに、アメリカの政治システムの簡単なおさらいをしつつ、トランプ氏の政権が「短命に終わる」と断言している著名なアメリカ政治史の教授の主張も分析してみよう。




そもそもトランプ氏は何を叫んでいたのか?

トランプ氏と聞いて、多くの日本人は「人種差別的な発言をした人」とか、「暴言ばかり叫んでいる人」、「米軍を日本から撤退させそうな人」、はたまた「なんかヤバそうなやつ」といった、ぼんやりとした悪人像や恐怖感を思い浮かべるのではないか。

実際のところ、どう言った点でトランプ氏の選挙中の発言、公約、政策が「ヤバそう」だったのか、詳しく知っている人は少ない。

そこで、まずは特に目を引くトランプ氏の政策を簡単に要約してみよう。
トランプ氏の選挙戦公式ページのうち、「POLICIES」というページを見ると、日本の政党でいうところのマニュフェストを閲覧することができる。

ウン千億を要するメキシコ国境の「トランプウォール」

Begin working on an impenetrable physical wall on the southern border, on day one.
Mexico will pay for the wall.

政権初日には、通過不可能な物理的な壁を、南側国境に築くことに着手する。
壁の建設費用はメキシコが拠出する。

「Immigration」というカテゴリで一際異彩を放っている公約が、メキシコ国境に巨大な壁を築き、不法移民が入ってこれないようにするということだ。

トランプ氏は、繰り返しこの国境に築くという「壁」に言及してきた。
演説の際にも、繰り返し「トランプウォール」「ビューティフルウォール」「グレイテストウォール」といった表現を使いながら、不法移民の排斥を訴え、観衆を盛り上げてきた。

これに対し、米ワシントンポスト紙は、トランプ氏の主張をそのまま具体化すると、壁はメキシコと国境を接する1000マイル(1607.9km)にも及び、たとえそれをコンクリートより低コストなフェンスで実現したとしても、30億ドル(3000億円超)の費用が掛かる指摘している。

費用的に考えれば、とても完全に実現することが可能とは思えないのだが、やはりこうした姿勢を打ち出すことで、移民に仕事を奪われたと感じている米国民の心を打ったのかもしれない。

しかし、問題は費用面だけではない。
そもそも不法移民の多くは、国境から侵入するのではなく、正規のビザを持って入国し、ビザの期限が切れた後も働き続ける不法滞在タイプが過半数を占めているという指摘もある。

不法移民の構成についてよく引用される研究として、1997年に移民を所掌していた当時の政府機関 The United States Immigration and Naturalization Service が発表した推計があるが、そこでは、不法移民の41パーセントが、正規ビザを持って入国したものの、ビザ期間を過ぎ滞在している不法滞在者(overstays)であるとされている。

さらに、近年ではオーバーステイ(=いわゆる不法滞在)の不法移民の割合が一層増加しているという研究もある。

Immigrants
(Quoted from Center for Migration Studies)

このレポートによれば、2012年時点で、オーバーステイの不法移民が過半数を占めているというのである。
メキシコ国境に壁を築いたところで、こうした不法滞在を防ぐことはできないので、実現のために必要となる費用のわりには、効果も限定的と言えるかもしれない。

トランプ氏は、選挙戦時に繰り返し「壁の建設費用はメキシコが支払う」と主張してきたが、そんなことはまず実現し得ないと本人も分かっているであろう。
トランプ氏としても、象徴的な意味が強く、部分的にはフェンスの設置を行うかもしれないが、実現する気はほとんどない政策と言えるのではないだろうか。

アメリカは土建国家として再生するのか

トランプ氏の主張のもう一つの特徴は、大幅な減税と、大規模な国内インフラ投資だ。
公約のうち、Infrastructureや、Tax Planといったカテゴリーを見ると、国内の大規模な財政支出を軸とするトランプ氏の経済政策が見えてくる。

Reduce taxes across-the-board, especially for working and middle-income Americans who will receive a massive tax reduction.

全ての人に減税を行う。特にアメリカ人の労働者と中間層が大幅な減税を受ける。

Refocus government spending on American infrastructure and away from the Obama-Clinton globalization agenda.

政府支出を、もう一度アメリカのインフラに向かわせ、オバマやクリントンのグローバルな政策からは離脱する。

世界の株式市場は、大統領選の直後に予想外のトランプ当選で急落したものの、公約にあるこうした減税・投資重視の政策への期待が高まり、翌日からは一転してアメリカの株価が急速に跳ね上がり、世界中でも株高が進んでおり、ミニバブルの様相を呈している。

トランプ氏が大統領となることで、減税と大規模なインフラ投資、そのほかオバマケアの見直しなどで企業にとって有利な政策展開となり、アメリカ景気が回復するのではないかという期待が世界的に高まっているのだ。

しかしながら、今回の選挙では上院、下院ともに共和党が勝利しており、下院の議長として再選したポール・ライアン氏は、選挙中にトランプ氏の不支持を明確に表明し、しかも財政政策に精通する共和党の主流派の人物だ。

ポール・ライアン氏は、トランプ氏が当選するわずか1ヶ月前の2016年10月時点で、もはやトランプを支持することはできず、大統領選までの1ヶ月は、下院で共和党が過半数を取ることだけに注力すると発言したという

ポール・ライアン氏とトランプ氏の間にある政策面での溝は極めて深く、トランプ氏が自分の思う通りの財政政策を実現するには、ポール・ライアン氏をはじめ共和党主流派の説得が必須であり、トランプ氏が選挙期間中に掲げたような過激なアクションや財政出動を行うことはできないだろう。

「トランプ相場」として、予想外の急激な上昇が続いている日米の株価は、引き続き先行きが非常に不透明と言える。
トランプ氏の発言や、共和党主流派の発言一つで、簡単に相場が急落してしまうかもしれないので注意が必要だ。

トランプ政権の短命を予想するアメリカ政治学の権威リクトマン教授

リクトマン教授は、首都ワシントンD.C.にあるアメリカン大学の政治史の教授である。

リクトマン教授は、統計学者のモシュマン氏とともに開発したプログラムが、1984年から大統領選の結果をほぼ全て的中させていることで最も知られている。
そして、今回の大統領選でも、大手メディアがこぞってヒラリー氏勝利を予想する中、トランプ氏の勝利を予想していた。

そんなリクトマン教授は、トランプ氏が「弾劾(impeachment)」されるのではないかと予想している。日本ではあまり聞きなれないシステムなので、簡単におさらいしてみよう。

弾劾(impeachment)とは何か?

弾劾とは、アメリカの議会において、収賄罪など何かしらの罪を大統領などが起こした際に、その人物を議会が訴追できるようにするシステムである。
合衆国憲法では、下院が訴追することはできるが、弾劾を決定できるのは上院のみとされており、上院出席議員の2/3の賛成が必要となっている。

この制度を使うことによって、場合によっては大統領をやめさせることができるというわけだ。

もちろん、現時点で、トランプ氏は特に何かの罪には問われていない。

たとえ不適切発言が多く、国境に壁を作るなど実現不可能な政策ばかりであっても、それだけで弾劾を可決することはまず不可能だ。
そもそも、院も下院もトランプ氏が所属する共和党が過半数を握っているので、普通に考えればトランプ政権は安定的な政権運営を行うものと予想される。

リクトマン教授が語る、まさかの弾劾の可能性

しかし、リクトマン教授は、一見まず起こることがなさそうな弾劾が、トランプ氏については起こり得ると指摘している。

リクトマン教授は、まず第一に、トランプ氏が議会を掌握する共和党主流派から信頼を得ることができておらず、明らかに副大統領であるマイク・ペンス氏の方が共和党主流派にとって都合がいいという点を指摘している。

He is a loose cannon. Nobody knows what he really believes or really where he stands. He can’t be controlled. The Republicans would vastly prefer to have Mike Pence, an absolutely predictable down-the-pipe conservative Republican.

トランプ氏は、何をしでかすか分からない問題児だ。誰一人として、彼が本当は何を信じ、どのような立場を取るのかを知らない。彼はコントロールできないのだ。共和党員は、予測可能性が高い正統保守の共和党員マイク・ペンス氏を、遥かに好むであろう。

(Quoted from CNN.com / Nov 18, 2016)

トランプ大統領となった場合に、非常に特殊なのは、大統領の政党も、上・下院の政党も、全くねじれていないにもかかわらず、共和党内での軋轢が存在するということだ。

これが、トランプ氏が大統領に決定した今でも、将来が見通せない最大の要因である。

選挙活動中から話題になった通り、トランプ氏は政策に関する発言が二転三転し、人種差別と取られる発言を繰り返すなど、同党の議員から見てもコントロールがきかない。

普通は、大統領が共和党員で、議会も共和党が握っていれば、非常にスムーズに政策が通過していき、善かれ悪しかれ強力な政府体制が敷かれることになるはずだ。
しかし、トランプ氏はあまりに従来の共和党の主流派と主張が異なるため、たとえ大統領と議会の政党が一致していても、利害対立や、議会の反発の可能性が極めて高いのである。

先述した下院議長のポール・ライアン氏との対立のように、今後トランプ氏が政権運営に携わる中で、共和党員との対立が激化する場面は時折見られることになるだろう。
そうした際、もし議会が反旗を翻せば、トランプ氏が弾劾される可能性は、決してありえないこととは言えないのである。

そしてさらに、リクトマン教授は、トランプ氏は法に抵触するスキャンダルを抱えている可能性が高いと指摘する。
つまり、弾劾に持ち込むための材料はいくらでもありそうだということだ。

早速ながら、大統領選直前の9月には、トランプ氏が自らの慈善団体の資金を不正に流用して、訴訟の和解金に当てていたという報道もある。
数々のスキャンダルを抱えていると思われるトランプ氏は、叩けば法に抵触する行為が出てくるのではないか、というのがリクトマン教授の主張だ。

大統領と議会の対立が激化した場合に、何も材料がなければ弾劾に持ち込むことはできないかもしれないが、トランプ氏の場合は、容易に弾劾のための材料を見つけられてしまうというわけだ。

予測不可能な「トランプ後の世界」

アメリカでは、クリントン氏が得票数では100万票の差をつけて勝利していたこともあり、複雑で得票数が少なくても勝利する可能性がある選挙人制度そのものを改正しようといった動きも見られている。
また、大統領選に敗北したヒラリー・クリントン氏を大統領にしようとする団体が、選挙後1週間足らずで400万人を超える署名を集めたりと、選挙後もアメリカ国内の混乱は収まりそうにない。

トランプ政権は2017年1月20日に正式に誕生するが、今回の記事で紹介したように、非常に不安定な要因が多いのが現状だ。

今のところ金融市場は、トランプ氏の政権運営が経済成長をもたらすのではないかという期待で上昇をしているが、政権関係者や共和党関係者のちょっとした発言で大きく相場が崩れるリスクもはらんでいる。

選挙中の暴言が収まり、共和党主流派と協力しながらそつなく政権運営を行うのか、もしくは選挙中からの過激な主張を議会を押し切って通すことができるのか、はたまた共和党主流派との対立が深まりリクトマン教授のいう弾劾に至るのか。
いっときたりとも目を話すことのできない緊迫した状態が、これから数年にわたり、世界中で続くのかもしれない。

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